9月5日 (金) カフエ12ケ月
Eさんと初めて会つたのは、今から16年前の夏が終わつた今頃でした。 「カフエ12ヶ月」の建物はHPの施工例に載せています。 4年程前Eさんはご病気で亡くなられました。 その後、この建物は所有者が変わり、その方から「デツキ」を修理したいとの相談が有り、1年振りに「カフエ12ケ月」を訪れました。 持ち主が変わり、建物の細部が変わろうとも私にとつてはいつまでもEさんの「カフエ12ヶ月」です。 亡くなられたEさんへの追悼の気持ちを込め、 少し「カフエ12ヶ月」のお話をしてみようと思いす。
場所は帯広から車で40分ほど走つたところの更別村、どんぐり公園近く。 久しぶりに見る建物には当然、当時の看板も無くなり、柏の葉の陰に隠れる様に佇んでいました。 「寡黙」・・・この言葉はEさんを思い出す時、最初に浮かぶ言葉です。 不動産業者を通じ、初めて紹介され「出来るだけ柏の木を切らずにお店と住まいを作りたい」と。 Eさんの年は当時30歳を少し過ぎていたはず。 賃貸でお店を開くのでは無く、「固定資産税」までも払い、尚且つお店で1人生計を経てて行くとのことでした。 打ち合わせが進むうち、彼女が建設費にかけられる金額内に納める事がなかなか難しくなり、住宅はこれ以上削られないところまで削り、店の内部もぎりぎりのところまで予算を削ることになりました。 建物に掛かり、切り倒す予定の柏の丸太を店の中に立てる事を提案したところ、彼女は了解し、「皮はうちで剥くので磨く作業は自分でね」との約束になり、彼女は会社作業場へしばらく通つてもらい、職人さんと一緒に埃まみれになることもいとわず曲がつた柏の木を慣れない手つきで磨いてくれました。
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9月16日 (火) カフエ12ケ月
打ち合わせの回を重ねて行く内、最もこだわつた「テーブルに座る椅子から窓を通して何が見えるか」,「建物をもつと林の奥へ、もつと・・・。」。(なぜそこまで・・・。) 私とは何か打ち解けない空気が残つたまま建物は完成して行きました。 完成が近付いた頃、Eさんからお店の名前を何かはにかむ様に、小さな声で「カフエ12ケ月」と初めて聞きました。 開店前には職人さん達も交え、心のこもつたお料理を振舞つて頂いた事を思い出します。 亡くなられた翌年、仕事も兼ねて関東にあるEさんの実家に立ち寄り、お線香をあげさせていただきました。 小さな仏壇に飾られた遺影のEさんの表情は家族での北海道旅行での1枚とのことで、とても清々しい笑顔が印象的でした。 なぜEさんはあれほど森の中にまで入り、自らそこへ住み、店を持つまでに至つたのだろうか。 Eさんは私の出会つた依頼主のなかでは、ある面において特出した感性と強い精神の持ち主で、その後の私の仕事に少なからず影響を与えていただいた方の中の1人です。 Eさんの生まれて育つた家も含め、周りの環境も私の目で確かめて見たかつたのです。 そこは私の予想を裏切り、実家周辺だけは蜂の巣の様に住宅が密集したところからいくらも離れていないのに忽然と小さな「田舎」に包まれていたのです。 Eさんは清々しい風が流れる、私なども忘れていた本当の「田舎」を探しに来た1人の様な気がしました。 桂の厚い板に彫りこまれた「カフエ12ケ月」の看板は遺影の隣に静かに立てかけられていました。
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2014/9 |
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