39.60平方m(12坪) 思い出の狭小住宅
 39.60平方メートル、謄本に記載されている敷地面積です。
 39.60 ÷ 3.3=12・・・ですから坪に換算して約12坪。


 すでにワンス アポン ア タイム、昔むかしの話になってしまいましたが、それは私が独立してまだ2年目の話、何と12坪という土地に家を建てる話が舞い込んで来ました。

 ちなみにこの土地は建蔽率80、容積率300,準防火地区です。
 住宅用としては12坪というこの土地、面積としても極端に狭いのは確かなのですが、同時に南、東、西と敷地の3方が他の建物に回まれていて、開かれているのは唯一北面だけ。しかもそこは河川敷地で結果として公道に接している面がないのです。
 「こりゃあ大変だ!」というのが第1印象でした。だいたい上水道と下水道はどう引き込んだら良いのだろうか?
 施主さんのご要望は右の一覧の通りです。
 食事でいえば前菜・デザート付で、かつ「てんこ盛り」メニューをインデアンカレー(それも普通盛り)のリーズナブル価格でといったところ。普通に考えれば「残念ですが」とお断りするのが筋だったと思います。しかし、私の側にこれをなんとしても受けたい理由がありました。 何といっても当時の私はまだ独立して2年、まだ仕事らしい仕事をしていません。そうです、それまでの新築住宅の実積は1軒(兄の家)のみ。暇を持て余していたというよりは、腕が鳴っていたというほうが聞こえが良いと思いますが、そんなわけで「家が作りたい」、「仕事がしたい」・・・「どこかに仕事が落ちていないか」と仕事に飢えていたのです。
 唐突ですが、ご存知『シャーロック・ホームズ』、彼は事件のない日が続くと「鬱(うつ)」に陥ったり、ひどい時にはコカインなど「薬」に走ったりするらしいのです。脳が退屈に耐えられないのだそうです。幸いなことに私の脳は退屈にはめっぽう強く、いくらボーッとしてても平気ですし、どんなにストレスの掛かった時もビール一杯で絶好調なのですが、それにしてもその頃仕事に飢えていたのは事実です。そこに「仕事」です! なに「予算が乏しい?」「まかせなさい!」です。 実は「ローコスト住宅」,徹底的に体験済みでした。そうです唯一の新築実績である兄の家、これが「超」つきのローコスト住宅で、おかげでローコストのノウハウには自信がありました。それと、今回の様な難しい条件はそう出てはこないのでは無いだろうか。だったらお引き受けして思い切り勉強させてもらおうという気持ちもありました。
 いずれにしても私はこの依頼を大変なファイトを持ってお引き受けしたわけです。
ムーミンの家(?)プラン
 敷地は狭小でも2世帯に子供2人が住むわけですから内容を端折るわけには行きません。となれば必然的に「平面でとれないなら上下に伸ばそう」ということで地下階つきの三階建て、周囲の建物から一段頭を出したノッポなデザイン、「ムーミンの家」のようなプランになりました。
 「地下階」を車庫、物置、ボイラー室。「1階」がお母さんのフロアー。「2階〜3階」はご夫妻と2人のお子さん4人の家族スペースになっています。3階には子供室、ロフト、ご夫妻寝室を設けています。
 玄関こそはやむを得ず1つで了解していただきましたが、それ以外の要望は全て実現することができました。
 
アルバムを覗いたら
砕石を付き固める工程地下室部分の排水溝取り付け基礎鉄筋組み立て
鉄骨の組み立てALC施行による外壁工事完成!
 写真はほとんど撮っていなかったのですが、周囲の建物からポコンと頭一つ飛び出して建った完成写真を見ると、何か「愛しい」といっては変かも知れませんが、そんな気がします。そして完成後、さあいよいよピアノを入れる(3階子供室)という段になって、下見に来たピアノ運搬業者に「ここは窓が狭くてピアノが入りません」といわれた時のショックもまた忘れられない記憶です。幸い知り合いの「日通」さんにすがる思いでみてもらったところ「窓幅に1センチ余裕があるので問題ありません」とのことで、翌日、ピアノは無事に3階子供室に収まりました。あのときのうれしさと言ったら! 「1センチの余裕・・・問題ない」さすが運搬のプロ!ですよねえ。
 39.60平方メートル、12坪の敷地に建つ家。私に取って本当に良い勉強をさせてもらった建物です。それはそれとして施主さんやご家族の夢や希望がたっぷりと詰まってその分ノッポになったこの家、施主さんご一家のこれまでの人生の中でどんな役割を果たして来たのでしょうか。これからのご家族の「幸福」に十分貢献できるでしょうか。
 今も思い出し、考えさせられる「家」の一つです。


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